小説家・カツセマサヒコ「専業も共働きも、どの家庭も再現性がないというのが全て」
2026.04.18
7名の作家による短編小説『パパたちの肖像』。令和パパの育児がテーマという珍しさとともに、人気のパパ作家が寄稿した書籍ということで話題に。著者のひとりである作家・カツセマサヒコさんに、作品「そういう家族がそこにある」に込めた想いやご自身の家庭について話を伺った。
共働き家庭の大変さと
専業主婦家庭の生きづらさ
子育て、家庭、仕事に向き合い奮闘する令和パパのリアルな現状が描かれている『パパたちの肖像』。中でも、カツセさんの作品のテーマは「専業主婦」。自身も専業主婦家庭ということで取り上げたそうだが、作中で描かれたシーンさながらの出来事がきっかけになったという。
「ある飲み会で、僕と同じように片働きをしている男友達が強く批判を受けるシーンに出くわしました。友人のパートナーは、育児や家事のキャパシティがそんなに広げられない方みたいで、すぐいっぱいいっぱいになっちゃう。なので、友人が1馬力ながら育児、家事もサポートをして、パートナーの方が、負荷のかからない範囲で育児、家事をこなす、というバランスでやっていたんです。そんな中、その友人が『メンタルも含めて体調を崩しそう』と漏らした時に、『パートナーがおかしいんじゃないの?』『働いていたらわかるけど専業だったらもう少しやるべき』とか、女性陣からいろんな言葉が飛び交っているのを見て、『共働きってすごく大変だよね』『専業主婦だったらがんばれるよね』っていう雰囲気に違和感と恐怖を感じました。多くの人が共働きになったことで、育児・家事が以前とは別の形で軽視されている気がしたんです。でも、「うちの方が大変」って思う理由は家庭ごとにあって、それぞれの地獄と幸せがあるから絶対に比較はできない。どの家庭も再現性がないというのが全てだと思うんです。片働きの家族が生き辛さを覚えている現実があるなら、そこにスポットをあてた物語がひとつあってもいいかなと思いました」。
家庭を円滑に回す秘訣は
家の中に妻の聖域を作らない
カツセさんも当初は共働き家庭だったが、まさに作品の展開のように、家庭が回らない状況に追い込まれたという。
「もう無理なんじゃないか? と絶望する瞬間がある日起きてしまって、共働きを辞める決断をしました。今後、経済的に苦しい状況になるかもしれないけど、今、一家全滅するよりかはマシだったんです。話し合いの結果、僕が働いて、妻が専業主婦になるカタチを、子どもが2歳ぐらいになったタイミングで始めました」。
専業主婦家庭の決断により回るようになったカツセ家。家庭を円滑に回すためのルールを聞いてみた。「家の中に妻の聖域を作らないことでしょうか。調味料の位置から子どもに塗るクリームまで、妻だけが知っている状態をまず無くすことは意識してやっています。僕も『この皿はこっちに置いたほうが使いやすいと思うから、1週間だけ変えてみようよ』みたいな提案をして、試すけど、やっぱり今までのほうが慣れているからと戻されたり(笑)。そうしてトライアンドエラーを繰り返しています。じゃないと、僕がお手伝いさんになっちゃうので」。
確かに、家庭に関わる全ての出来事を夫婦ともに自分事として捉えることで、お互いの立場をリスペクトし合える関係につながりやすい。では、全部頑張ろうと意気込んでみたものの、母親じゃないと子どもが泣き止まない、妻が子どもばかり気にかける、などからくる無力感にどう向き合うべきか?
「疎外感は覚えるかもしれないですが、そもそも愛があって家族になったわけです。彼女が妻になり、ママになっても、あなたを大切な存在として見ています。真面目に色々やってきた人は実績を肯定されてきた自信で頑張ってこれたんだと思うんですが今度は、自信を与える側の段階に入ってきたと思います。褒められることを求めず、褒める側に回るようになった自分の成熟を喜ぶべきです」。
主体的な時間の使い方で
芽生えた父親として自覚
実は、カツセさん自身もお子さんが生まれた直後の育児期間、自尊心が傷つけられて悩んだ過去が。「妻の抱っこじゃないと子どもが寝なかったりすると、まるで子どもから人格否定を受けているみたいで、最初はめちゃくちゃしんどかったですよ。父親がおっぱいを飲ませられたらと思う気持ち、すごくわかります(笑)」。
そんな当時を振り返り「父親としての自覚が足りなかった」と語るカツセさん。最初の1、2年は「時間が奪われている」感覚が強く、仕事の忙しさを言い訳に育児から逃げていたそう。しかし、その感覚は引っ越しをきっかけに消えていったという。
「下の子が3歳になる頃、郊外の一軒家に引っ越して、仕事場を家の中に設けたんです。そうしたら、子どもといる時間、妻といる時間、家族の時間、仕事の時間、友人と過ごす時間、すべての価値がフラットになりました。移動に時間がかかるようになった分、どの重要度なら外出するんだろう、というのを自分の中で敷きなおす感覚があって。カラダはひとつしかなく、1日は24時間しかないので、流されずに主体的に時間を使うようになってから、時間を奪われる感覚が消えましたね」。
本作のように子育てに奮闘するカツセさん。今後も家庭をテーマにした創作に期待したいところだが。「これからより子どもの人格が形成されていく大事な時期なので、いづれ子どもが読む可能性を考えると書かないほうがいいのかなとか、その加害性を考えます。『親父が俺の初恋、全部小説にしやがった!』とか。ニルヴァーナの赤ちゃんでさえ訴える時代なので裁判もありえますよ。ギリギリ有罪になるんじゃないかと(笑)」。
PROFILE
カツセマサヒコ(MASAHIKO KATSUSE)
1986年、東京都生まれ。Webライター、編集者として活動しながら2020年『明け方の若者たち』(幻冬舎)で小説家デビュー。2021年には川谷絵音氏率いるバンドindigo la Endの楽曲を元に書き下ろした小説『夜行秘密』(双葉社)、2024年には長編小説『ブルーマリッジ』(新潮社)、短編小説集『わたしたちは、海』(光文社)を刊行。初エッセイ集『あのときマカロンさえ買わなければ』(光文社/1540円)が発売中。小学生2人の父親でもある。
『パパたちの肖像』

父親の育児をテーマにしたアンソロジー。今まであまり語られてこなかった令和パパたちの心の声を7人のパパ作家が描いた話題作。2,200円(税込)(光文社刊)
●著者/行成 薫、似鳥 鶏、岩井圭也、石持浅海、カツセマサヒコ、外山 薫、河邉 徹
●収録作品/
娘の小学校のPTA活動に戸惑い――「ダディトラック」外山 薫
俺も授乳ができたらいいのに。「俺の乳首からおっぱいは出ない」行成 薫
いないはずの「父」の筆跡は――「連絡帳の父」岩井圭也
息子の大切なトミカがなくなった!「世界で一番ありふれた消失」似鳥 鶏
地方の大学に進学する息子と旅に出る。「息子の進学」石持浅海
不器用な俺は、娘の髪をうまく結べない。「髪を結ぶ」河邉 徹
飲み会で妻が専業主婦だと言うと、激しく非難され――「そういう家族がそこにある」カツセマサヒコ
文/小櫃謙
写真/松尾夏樹
PARENTS Well-being VOL.77(2026年冬号)より転載
RANKING
MAGAZINE
PRESS


