【コラム】夫婦の「わかってほしい!」がぶつかる前に。「共感ファースト」と労いでつくる夫婦の土台【第2回】
2026.09.24
夏休みが終わり、家族の日常が戻ってくる9月。少しは楽になると思いきや、学校や仕事、家事に追われ、夫婦の間にイライラやモヤモヤが生まれることも。お互いの「わかってほしい!」がぶつかる前に実践したい、「共感ファースト」と労いについて考えます。
熊野 英一

「相互尊敬・相互信頼」のコミュニケーションを伝える勇気づけのプロ。1972年パリ生まれ。早稲田大学卒業後、メルセデス・ベンツ日本、米国MBA取得、イーライリリーを経て保育業界へ。約60箇所の施設運営を経て株式会社子育て支援を設立。日本アドラー心理学会正会員、日本個人心理学会理事。著書に『1日1分アドラー 悩みがゼロになる心の処方箋72の言葉』『夫婦の教科書』など8冊。不登校支援「ビリーバーズ」運営等多角的に活動中。
季節の変わり目、家族のリズムが乱れやすい9月
朝晩の風に秋の気配を感じるようになる9月下旬。猛烈な暑さが一段落して過ごしやすくなる一方で、夏の間に蓄積した肉体的・精神的な疲労がどっと表面化しやすい時期でもありますね。
加えて、学校などでは2学期が本格化します。夏休みのゆったりした日常から一変し、時間割通りの早起き、毎朝の検温や持ち物チェック、大量の配布プリントの確認、さらには秋の行事や習い事のスケジュール調整など、家族全員の生活リズムが急激に変化します。
「夏休みさえ終われば、少しは自分の時間ができて楽になるはずだったのに……」
そう思っていたにもかかわらず、気がつけば朝から晩まで時間に追われ、パートナーの何気ないひと言や態度にイラッとしたり、モヤモヤを募らせたりしてはいませんか?
実は、この季節の変わり目は、知らず知らずのうちにお互いの「不機嫌のスイッチ」が入りやすい危険なタイミングなのです。
2学期初旬の朝、リビングで起きる「小さな衝突」
あるご家庭の、平日の朝のリアルな光景をのぞいてみましょう。
時計は午前7時20分。子どもたちが登校するまでのリミットが迫る時間帯です。
妻はキッチンで朝食の片付けをしながら、子どもの水筒を準備し、連絡帳に目を通しています。子どもが「ママ、体操着どこ?」とぐずり、まさに猫の手も借りたい状況です。ふとリビングに目をやると、夫がソファに座ってコーヒーを口に運びながら、スマートフォンをじっと見つめています。
妻の胸には、瞬時に黒い感情が湧き上がります。

たまらず妻は、トゲのある冷たい声で言い放ちます。
「ちょっと、座ってスマホ見てないで、子どもの着替えくらい手伝ってくれない?」
一方、言われた夫にも言い分がありました。夫は朝一番で子どもたちを起こし、朝食を食べるよう声をかけ、自分の身支度を済ませたところでした。スマホを見ていたのも遊んでいたわけではなく、出勤直後に始まる重要案件のメールに緊急の返信を打っていたのです。
妻からの一方的な非難と冷たい視線を受け、夫の心にも強い反発が生まれます。

直接の言い合いにはならずとも、リビングには重苦しい沈黙が流れ、互いに目を合わせないまま出勤・登校の時間を迎える――。家庭の空気が一瞬にして「ふきげん」に支配された瞬間です。
コミュニケーションの本質は
「わかってほしい!」のせめぎ合い
なぜ、こうしたすれ違いが起きてしまうのでしょうか?
私が企業研修やカウンセリングの現場で強く実感しているのは、「人間関係における対立やトラブルの根底には、ほぼ例外なく『わかってほしい!』という叫びの衝突が存在している」という事実です。
先ほどの朝の場面を振り返ってみてください。
•妻の心の奥底にあったのは、「新学期でやることが山積みの中、家族のために必死で段取りしている私の大変さをわかってほしい!」という叫びです。
•夫の心の奥底にあったのも、「出勤前の限られた時間で子どもを気にかけつつ、仕事のプレッシャーとも戦っている僕の努力をわかってほしい!」という叫びでした。
お互いに「自分はこんなに家族のために頑張っているのに、目の前のパートナーはまったく認めてくれていない」と感じているのです。
アドラー心理学では、人間関係においてどちらが正しいか、どちらが優れているかを競う状態を「タテの関係(支配と依存、勝ち負けの競争)」と呼びます。
「私のほうが大変」「あなたのやり方は効率が悪い」と相手をジャッジし始めるのは、突き詰めれば「自分の頑張りを承認してほしい」という心の防衛反応に他なりません。
しかし、互いに「わかってほしい!」を武器にして相手にぶつけ合うと、関係性は即座に「対戦相手(戦闘モード)」へと変わり、家庭の心理的安全性が根底から崩れ去ってしまいます。
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